平凡な日々と阪神淡路大震災の記憶、日常を淡々と生きる人へ『神戸在住』

こんにちは。漫画大好き辰巳です。

今回は神戸に住む人の日常と、阪神淡路大震災の記憶を描いた『神戸在住』を紹介します。

平凡で、毎日変わることのない日々。描かれるのはごくごく小さなさざ波のような出来事だけで、それらはすべて、ごく当たり前のことのように見えます。

しかし、神戸に在住する人たちが、淡々と生きている日常の中で、一皮むいたすぐ下に抱えているものは、1995年の阪神淡路大震災の記憶。多くの人の死を越えた上に在る「平凡さ」なのです。本作は1998年に連載が始まっており、震災の記憶がまだ生々しかったころの作品なのですが、その恐ろしい記憶を平凡な日常にそっと挟みこんでいる物語です。

静かな日常が随筆のように、スケッチのように描かれ、ほんのり穏やかな気持ちになる物語ですが、その穏やかさは時に容赦なく襲う死を抱えている――そんな残酷な真実をこの作品はどこまでも素朴に描いています。

あらすじ――女子大生のささやかな日常と、阪神淡路大震災の記憶

そんな神戸に東京から移り住んだ主人公・桂(かつら)の毎日もまた、なにごともない平凡な日常です。

ごく普通の家族にかこまれ、美大に通い、個性豊かな友人たちに囲まれておしゃべりしたり、神戸のおしゃれな街に買い物に行ったり。穏やかな毎日を彼女は過ごしています。

ある日、サークル仲間と集まっていた時に起きた小さな地震に、友人がパニックになります。

彼女は震災の時につぶれた家の下敷きになった経験を持っていました。その場にいる友人たちも何かしらの経験を持っている中、当時は東京にいて震災を「知らない」桂は、「取り残されたような気になった」と感じます。

半壊した家を出て避難所へ独りで向かった人、ボランティアとして奔走した人、いまだ仮設住宅に暮らしている人・・・

桂の住むマンションは震災後まもなくに建てられた真新しいものですが、裏手にはまだくずれたままの崖があります。

桂自身の何気ないように見える毎日を、震災から3年たった神戸に在住する人々の記憶が取り囲んでいるのです。

また、彼女自身にもその記憶の底に、幼い時に経験した祖母の死があります。幼すぎてよくわかっていなかった大切な人の死を、彼女はときどき、ふっと思い出して思いを巡らします。

そして神戸の街で知り合った、イラストレーターの日和(ひなた)と親しくなる桂。病を抱え、車いすで暮らす彼の絵に桂は惹かれ、やがて日和の存在が大切な「友人以上の何か」になっていきますが、だからと言ってすぐに恋愛物語になるわけでもなく、日々はまたたんたんと流れ、そして死へとつながっていくのです。

辰巳の感想――阪神淡路大震災の記録として読む

東京に住んでいる私にとって、阪神淡路大震災はテレビを通して見たものにすぎません。

それでもあのとき何があったのか、この漫画を通して追体験することができました。

行政やマスコミではなく、あくまでもそこに生きている人たちの視点で、丁寧に、詳細に描かれる震災は、報道では決して見ることのできない、人々の「体験」として、この物語に収められています。高校生や大学生、子ども、父親や母親、ボランティアの人たち一人一人の心情が刻まれたこの漫画は震災の貴重な記録でもあると思います。

その重さを背負ったうえで、物語は何ごともない日常も静かにささやかに描き留めています。その落差がすごいと思うのですが、どちらも「神戸に住んでいる」人の日常として等価に描かれているのは、死も平凡もひっくるめて人の生きる日々なのだということを感じさせます。

この物語には、4つの死があります。桂の知らない阪神淡路大震災の死、幼すぎて重みの分からなかった祖母の死、飼っていた猫の静かな死、そして物語終盤に桂が正面からぶつかって苦しむ死が、それぞれ桂をめぐっていきます。

しかし4つの死はどれも過ぎ去って無くなるものではなく、桂の中に生きていくのです。

物語が終わる時、それらの死はすべて桂の平凡な日常に包まれていきます。

作者・木村紺とは・・・

性別、年齢含めてプロフィールがまったく謎に包まれた漫画家です。震災の描写やエピソードは本人とその周辺の人々の実体験ということなので、関西に住んでいた模様です。

本作は黒塗りのベタをほとんど使わず、またスクリーントーンもなく、線画中心で細かく細かく描写しています。神戸の街並みも写実的に描かれており、桂同様に美大生だったのかなと思わせます。

本作終了後はコメディ『巨娘』(きょむすめ)や、これまたコメディタッチの女子柔道部の物語『からん』などを発表していますが、静かな展開の本作から、わちゃわちゃしたコメディに移るなど、だいぶ作風が変わっていて、本作のファンの人はびっくりするかもしれません。

作品情報――受賞歴

本作で第31回日本漫画家協会賞新人賞を受賞しています。

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『神戸在住』

木村紺(きむら・こん)著

1999~2008年発行 全10巻

アフタヌーンコミックス 講談社

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以上、『神戸在住』の紹介でした。ではでは~

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