色あせない異端の民俗学!知的なホラーにハマりたい人へ『妖怪ハンター』

こんにちは。漫画大好き辰巳です。

今回はこの世とあの世の境目を追う『妖怪ハンター』シリーズを紹介します。

第1話『黒い探究者』が少年ジャンプに登場したのは1974年ですので、実に45年前の作品ですが、今読んでもまったく色あせていない、民俗学的怪異ストーリーものの元祖といえる、超有名な作品です。読んだことのない人でも「おらといっしょにぱらいそさいくだ!」の名セリフは知っている、という人もいるかと思います。あのネタもあの展開も、この作品が源流であることは多く、本作さえ押さえれば伝奇ものはだいたいOKという感じの歴史的作品です。

主人公は諸星作品の中で最も有名なキャラクター、考古学者の稗田礼二郎(ひえだ・れいじろう)です。名前は『古事記』の内容を暗唱していた稗田阿礼(ひえだのあれ)のもじりであることも有名ですが、始めこそ大学教授として登場するものの、第1話の最後で「教授の職を辞し」と、いきなりフリーになってしまいます。さらに話が進むにつれ考古学から離れて、民俗学的な世界に没入していくのも特徴です。外見は長髪に黒いスーツで、諸星作品の中ではハンサムの部類かと思うのですが、ええっ?と思った方、すみません。「沢田研二に似てる」ハンサムキャラということで納得してください。

考古学、民俗学といっても少年誌連載でスタート(のちに青年誌ヤングジャンプへ移行)しているので、内容的に難しいことはなく、稗田が闇の世界を垣間見る恐ろしいストーリーを、時代を超えて読む楽しみがあります。街の片隅に、人の心の奥に潜む異界へと稗田先生が案内してくれます。

基本的に主人公・稗田礼二郎が日本の各地で出会う怪異事件を追う展開ですが、『妖怪ハンター』という題名にもかかわらず、稗田は「ハンティング」はせず、傍観者、解説役に回ることが多く、闇は闇のまま、謎は謎のまま、人智の及ばぬ異世界として存在するところに怖さを感じる物語です。

あらすじ――「黒い探究者」と「生命の木」

第1話「黒い探究者」は、古墳の謎の文様と、稗田に手紙をよこした少年の父親の怪死事件から始まります。彼は古墳の玄室の模様に「描き足し」をしたことで異界への入り口を開けてしまったのです。稗田と少年は父親の研究を引き継ぎ、再び入り口を開けますが、その底知れぬ異界に蠢いていたのは「ヒルコサマ」と呼ばれる異形の者たちでした。

なすすべなく逃げる稗田たちを追うヒルコサマを、人間のいる「この世」へ出してはいけない、異界への入り口を稗田は再び封印します。

もう一編、本作で最も有名な「おらといっしょにぱらいそさいくだ!」の名セリフが登場する「生命の木」も異界とつながる壮大な物語です。

田舎のさらに奥地に暮らし、外の社会との交流をほとんど持たない「はなれ」の村人たちのもとを稗田が訪れます。折あしく村では殺人事件が起こりますが、それは村人の一人を十字架に磔にするという、奇妙な事件でした。彼らは「隠れキリシタン」であるというのですが、一様に知的障害の傾向があり、会話を交わすこともままなりません。稗田がたどり着いたのは彼らが「じゅすへるの民」であるということ。村の外の人間たちは「あだむの民」であり、村人は救済を待つ不死者であったのです。「いんへるの」に堕ちた「じゅすへるの民」を救う、もう一人の「きりんと」とは何者か。稗田の目の前に異界の「いんへるの」が現れます。

辰巳の感想――古事記から都市伝説まで続く異界

第1話のヒルコサマの造詣がいきなりこわい! どうするとこんな形が思いつくのかと作者の頭が心配になるような「異形」ぶりです。本作に登場する異形たちの姿は、作者・諸星氏ならではの素朴なフリーハンドのペンタッチからむくむくと生まれて今なおその恐ろしさを失っていません。

その異形たちがある意味で「妖怪」ですらなく、もちろんオバケでもなく、何と呼んでいいのか分からない「何か」であることが、この作品の特徴だと思います。つまり、闇は闇で、いっさい完結・解決を見ないことがほとんどなのです。それでも決して消化不良にはならず、異界から辛くも逃げ出せた、異界を封じたという余韻を残して物語が終わるのです。

45年前の作品ですので、もとよりコンピュータを使っての作画ではなく、ペンや、あるいは筆を使ったフリーハンドの絵は、イマドキのキレイな作画とは異なります。しかしそれがむしろ土着的な、いにしえの異形を立ち上がらせる筆力になっている気がします。キレイな絵が好きな人には向かないかもしれませんが、妖しいフリーハンドの味を楽しめるならこの作品の世界にハマれると思います。

作者・諸星大二郎とは・・・

代表作の本作をはじめ、日常からちょっと、時に盛大にずれた異界を得意とする人です。

もちろん現在も精力的に作品を発表していますが、あくまで手描きを貫く作風です。とはいえペン画も決してキレイとは言えず(失礼!)、巨乳の美少女キャラもいない、ある意味イマドキの漫画の作風とは距離を置いている印象があります。それでも、一コマ見れば諸星氏の絵と分かる独特の画風は、諸星世界を強固に構築する力でもあります。

いうなれば、現在活躍している若手の漫画家さんたちが子どもの頃に読み、大きく影響されたのがこの『妖怪ハンター』であり、『生物都市』や『暗黒神話』なのです。

高橋留美子の『うる星やつら』の主人公・諸星あたるの名が氏の名字を拝借したものであるなど、同業の漫画家さんやアーティストに多くのファンがいるのも、彼の世界の独自さの証ではないかと思います。また、同じく?伝奇物の描き手として有名な星野之宣氏と親交があり、星野氏の代表作『宗像教授伝奇考』特別版では、巻末に二人の対談があります。特に星野氏が描いた稗田礼二郎と、諸星氏が描いた宗像教授の合作色紙はお二人のファンを悶絶させる一品です。

デビュー作の手塚賞受賞にはじまり、多くの作品が受賞していますが、第4回手塚治虫文化賞マンガ大賞を取った『西遊妖猿伝』(すみません未読です)や、第12回文化庁メディア芸術祭漫画部門優秀賞をとった少女向け漫画『栞と紙魚子』などがとくに有名かと思います。

作品情報――映画化、リメイク、フィギュア化など

現在入手可能なのは集英社文庫の『妖怪ハンター 天の巻 地の巻 水の巻』三部作です。

新シリーズを収録した2005年発行『稗田のモノ語り 魔障ヶ岳』(KCデラックス)は現代版・妖怪ハンターという感じです。
『妖怪ハンター 稗田の生徒たち 夢見村にて』(ヤングジャンプコミックス)では、稗田が脇に回っていますが、なかなか衝撃的な登場をしています。

別冊太陽・太陽の地図帖31『諸星大二郎 『妖怪ハンター』異界への旅』に作品解説と描きおろし短編が掲載されています。

映画化された2作品があり、一作目『ヒルコ/妖怪ハンター』(1991年)では沢田研二が、『奇談』(2005年)では阿部寛が稗田礼二郎を演じています。

2011年に井上淳哉作でリメイク版『妖怪HUNTER 闇の客人』がありますが、こちらの稗田はなんだか美麗で女性的なのが微妙です。

集英社のサイト『妖怪ハンター 稗田礼二郎の書庫』に書籍・映画情報が掲載されています。

2014年に海洋堂から『諸星大二郎 立体異形図譜』として、稗田礼二郎2パターンとヒルコがフィギュア化、発売されています。

サイトはこちら

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『妖怪ハンター 天の巻 地の巻 水の巻』

諸星大二郎(もろほし・だいじろう)著

集英社文庫 2005年発行 全3巻

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以上、『妖怪ハンター』の紹介でした。ではでは~

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