今回は、空気を読まない鋭い発言が炎上しまくりの社会学者・古市憲寿さんをクローズアップしたいと思います。
古市さんの発言はなぜ炎上するのか?そもそも彼の主張はどんなものなのか?――主な著作をとおして探ってみたいと思います。
プロフィール
古市憲寿(ふるいち・のりとし)さんは1985年生まれ。
2003年、慶應義塾大学環境情報学部に、AO入試で入学。
2005~06年の1年間、ノルウェーのオスロ大学に交換留学します。
2007年に卒業後、東京大学大学院の修士課程に進学。ピースボートに乗船した経験を修士論文として提出、修了しています。2010年には、この論文をもとにした著作『希望難民ご一行様』を上梓しています。
気鋭の社会学者として、2013年から、安倍内閣の「経済財政動向等についての集中点検会合」委員、2014年には内閣官房「クールジャパン推進会議」メンバー、同年、「朝日新聞信頼回復と再生のための委員会」外部委員、2017年、厚生労働省「多様な選考・採用機会の拡大に向けた検討会」委員など、精力的に活動されています。
テレビ出演では、コメンテーターや司会者として、鋭い意見で激論を巻き起こすことから「炎上」キャラとして話題になっています。
社会学の著書多数に加え、2018年からは小説も発表、処女作は芥川龍之介賞候補になりました。
社会学者としての立ち位置は?
古市さんはとかく「炎上」のイメージが先行しがちですが、社会学者としての本来の主張はどういうものなのか、見てみました。
まず、炎上=反発を招くことに対して、「研究者の仕事は、人を不快にさせる面もあると考えている」と発言。普通の人?が普通に生きているところに、知らなくてもよかったことや、やっかいな疑問、隠れた不都合な事実などを突き付けることが、人の心を揺るがし、「不快」という感情を呼ぶことを自覚していることを表明しています。しかし、そうして揺らいだ先には新しいものの見方や、新しい考え方がある、と語っています。
暴言とも取られる鋭い発言で、ぬるま湯的な「空気」を意識的に引っ掻き回すスタンスは、年長者には生意気な若造、若者には炎上ネタの提供元とみなされていますが、社会学者としての問題提起の面でもあると言えるでしょう。
著作も炎上しているの?
古市さんの社会学者としての問題提起とはどんなものか、著作から見てみたいと思います。
(いずれも画像をクリックするとアマゾンのページへジャンプします)
まずは2011年の『絶望の国の幸福な若者たち』。
「いまどきの若者」は、社会的・経済的な安定を欠く非正規雇用という状態にあって「格差」にあえぐ「不幸な」存在である、という社会的な定義に疑問を突き付ける本著では、若者は「地元」というつながりや、ネット上の「仲間」からの承認を得て、それなりに幸福であるとしています。
20代の若者の75%が「現在の生活に満足している」と答えた統計をもとに、若者の幸福について調査した著書です。
社会の認識のずれをビシッと示した書名にまず惹かれる人が多いと思います。そもそも幸福というものが限りなく個人的なものである限り、「若者」とひとくくりにしてさくっと理解しようとすること自体、違うと思うので、ズレているという提言はしごくまっとうだと思います。
しかし、アマゾンの書評では内容に関して肯定・否定が6 : 4ぐらいです。「結局、古市さん自身もまた若者の一人」というもどかしさのようなものを評している意見を散見しましたが、炎上というほどではありません。
2013年発行の『誰も戦争を教えてくれなかった』
戦争を知らない平和ボケ世代の著者が戦争の記憶を歩く、という本ですが、ももいろクローバーZとの対談も収録した、若い世代目線の本のようです。
のちに『誰も戦争を教えられない』に改題してますが、誰も戦争を教えてくれなかった、という題には年長世代へ寄せる期待が、誰も戦争を教えられないという題にはあきらめのようなものを感じます。
社会学者が学問したというよりは、教えてくれない・教えられないから自分で歩いて探す、若者の旅の記録として読めるかどうかで書評も割れているように見えます。
2014年の『だから日本はズレている』
これは評価が散々なことになっています。いわく、自己満足、文が軽い、著者自身がまず勉強しろ・・・まさに炎上の1冊です。年長者からも若者からも怒られてるというのは、ある意味、テレビで見る古市さんのイメージそのままです。人それぞれの読者が古市さんから十把ひとからげに「ズレている」と言われて腹を立てている、という構図で、最もKYな本と言えるでしょう。しかし、人の神経を逆なでして、怒りの先に新しいものを見つけてほしいという、古市さんなりのサービス精神すら感じるものがあります。
まとめ
炎上ネタをブチまける、ということはよく言えば問題提起をしているとも言えます。それが社会学者の仕事の一つであるという古市さんの考え方は、確かに学者らしく、同時に若者らしいとも思ってしまいます。
社会から認められたいけど、ぶち壊してやりたいとも思う若者のアンビバレンツと、自分たちに従属してほしいけど、反抗するエネルギーにもあふれててほしいと思う年長者のアンビバレンツ。
その両方にとって実はけっこう心地いい「炎上」を、古市さんは提供しているような印象を受けました。
以上、古市憲寿さんの無手勝流考察でした。ではでは~